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私のイラスト(FFとか、BLEACH、Pandora Heartsが主)や 歌詞(アニソン)もがんがん貼っていきたいと思いますww
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「お兄さまー」
遠くから聞こえてくる呼び声。
「ここに花がございます。美しゅうございますよー」
幼い少女の声が一面の花畑にこだまする。
 嗚呼。
この声を聞いたのは、一体どのくらい前のことだったか。
私には全く思い出せぬ。
一体あれは、いつの事だったか。
あれは、誰だったのか。
思い出せぬのだ。
 
秋の江戸はたくさんの人で賑わいを見せていた。
私と、私の妹である、お桔は二人並び、その紅葉の中を歩いていた。
「お桔。今年の紅葉も美しいなぁ。」
「そうでございますね。」
お桔は柔らかく微笑むと、また紅葉に目を移した。
年の差は十。私が二十五でお桔が十五だ。
私たちの家は、この江戸の町で鍛冶職をしていた。
特に最近はこれといって、目立つ戦いもないためあまり、忙しくなるような仕事がない。
だから、兄弟揃って紅葉の観覧も出来るというわけだ。
 
「お兄さま!あそこに茶屋がありますよ!」
私が違うところを見ていた間にお桔は早くも茶屋を見つけたようだ。
お桔は甘いものが大好きで、今も買ってもらえるかもしれないという期待だけで目が輝いていた。
「はいはい。また団子がほしいんだろう?」
私は懐から銭を出し、茶屋の娘に差し出した。
それと引き換えに皿いっぱいの団子がやってくる。
お桔はそれを口いっぱいに頬張り、嬉しそうに目を薄めた。
 
私にとってお桔は、宝物のような優しい子だった。
嬉しそうなお桔を見ていると、こちらまで嬉しくなってくるようだ。
 
「そういえばお兄さま、お聞きになりましたか?」
「なにをだ。」
私はお桔から貰った団子を頬張りながら尋ねた。
「また江戸の南の方で火事があったそうなのです。今回も出火の原因はわからないとのことで、放火ではないかと言われています。」
「放火は大罪じゃないか。よくそんなことをしようと思うな。」
食べ終わった団子の串を噛みながら、私はお桔の方を見た。
すると、お桔も「そうですね。」とやんわり微笑んだ。
 
今、この江戸では、放火は御法度だった。
火を消すのには大変な時間と労力がかかる。
だから、放火をした者には厳しい罰が与えられていたのである。
 
「お兄さま、私、少し…行ってきます。」
お茶を飲み終えたお桔はお茶を一旦置くと、席を外そうとした。
「なんだ。厠か?」
私がそうきくと、お桔は少しだけ私を睨んで、
「そのようなことは口に出すものではありませんよ。」
と言って、厠に行ってしまった。
そんなに茶を飲んだら行きたくなるに決まっている。
 
戻ってきたお桔と、また二人で町を歩いた。
普通に用を足してきたにしては、お桔の用足しは長かった。
まさか…な。ここは考えないようにした。
それのせいかはわからないが、戻ってきてからというもの、お桔の表情は今にも降りそうな雨雲のように曇っている。
でも、お桔としてはわからないようにしているらしく、やたら元気に振る舞っていた。
何年間一緒に住んでいると思っているのだ。
それくらいの違いは兄にはお見通しだ。
 
家に戻ってくると、常連の客が店の前で立っていた。
「お兄さま、あれ…。」
「まずいな。悪い、お桔。行ってくる。」
私はお桔を家に入れた後に店のある方にまわり、その客の相手をしなければならなかった。
少し待たせすぎたようだ。客の機嫌はあまりよろしくない。
私はその客に茶を出すと、刀を預かり、仕事に取りかかった。
 
両親は、数年前に流行病で亡くなった。
だから、いまは私とお桔の二人だけ。
お桔は女子だから鍛冶職はできない。
つまり、必然的に私が家庭を支えなければならない。
そのための客は大事だ。今回ので大事な客を逃すことになるかもしれんが。
 
空はもう暗く、月さえでている。
仕事をある程度終えて、今日は店を閉まった。
なんとなく眠い気がする。…今日はもう寝よう。明日に備えて。
明日何があるというわけではないが、一応だ。
お桔も眠くなったらしく、もう身支度を整えて布団に入っていた。
「先に休んでおります。…おやすみなさい。お兄さま。」
「ああ。お休み。」
 
私はお桔の頭をなでてから、寝るための身支度を整え、布団に入った。
 
何だろう。先ほどから息苦しい。誰かにずっと呼ばれている気がした。
「お兄さま!起きてください!火事です!!」
お桔のその言葉ではっきりと目が覚めた。
…空が赤い。周りの家も、なにもかも。月さえ真っ赤だ。
「煙がもうこちらまで来ています!早く!」
私はお桔に手を引かれて、何も見えない中を歩いた。
煙が目にしみる。
何故私達の所で火事があったのだろう。
ここは、江戸の東のはずなのに。どちらかというと北寄りの。
私達は火から、逃げて今日立ち寄った茶屋に来ていた。
ここなら大丈夫だろう。たぶん安心だ。
 
「お兄さま、私、少し外の様子を見てきます。お兄さまはここで待っていてください。煙をたくさん吸ったはずですから。」
お桔は咳をしてむせ込んでいた私にそう言った。
「…いい。私が…行く。」
お桔に行かせるわけにはいかない。お桔は女子なのだから。
そう思って立ち上がろうとした。しかし、体は動かず、立ち上がることすらできない。
「いえ。私がいって参ります。お兄さまを行かせるわけにはいきません。」
お桔は微笑むと、茶屋からゆっくりと出て行った。
「…すまないお桔…。」
お桔は「いいんですよ。」とでも言いたげな顔をして一度だけ振り向いた。お桔は微笑むと、また私に背中を向けて外に出て行ってしまった。
 
それから、お桔は一度も家に帰ってこなかった。
何日待っても戻ってくる気配がない。
そもそも、家はすべて燃えてしまった。だから、家の跡に座っていた。それなのに、お桔は帰ってきてくれない。
「茶屋で待っていた方がよかったかもしれんな。」
土の上で胡座をかいて、考える。
すると。
 
「この鍛冶屋の主か?」
頭の上から声が落ちてきた。
「…っだれ…」
「俺は、この江戸の役人だ。お前はここにあった鍛冶屋の主かと訊いているのだ。」
役人…?何で私のところに御上の役人がくるのだ?
「そうだが…。何故…?」
立ち上がった私を見つめ、役人は言った。
 
「お桔はお前の妹だな?」
 
お桔の名前を出されて行かないわけにはいかない。
何故って、私はそのお桔をずっと探していたのだから。
 
私は役人に相当立派な屋敷へと連れてこられた。
そして、座らされる。
「待っておれ。」
役人はそう言って、何処かへ行ってしまった。
広い部屋に独りとは、なんと悲しいことか。
今までお桔がずっと傍にいてくれていたため、尚更だ。
 
半刻ほどすぎた頃に私の目の前の上座に一人の老人が座った。
そして、その横には大柄な男たち。
なにやら不穏な雰囲気を感じ取った私は、軽く前の老人を睨みつけた。
すると、男たちが入ってきた所からまた二人、人が入ってきた。なんと、その人とは。
「お桔!!」
縄で縛られたお桔と、その縄を持った男だった。
お桔は名前を呼ばれると、ふにゃりと微笑んで、また前を向いた。
格好は数日前と変わらないが、顔は窶れ、手足もやせ細っていた。髪も、痩せこけている。
可哀想な格好のお桔は私の横に膝を着かされ、座った。
目の前の老人は、私たち二人を交互に見やると、静かに口を開いた。
「今から、鍛冶屋お桔を放火の罪において裁く。」
私は自分の耳を疑った。
「放火だと…?」
お桔の方を見るが、お桔は前を向いて座ったままだった。
「兄は知らぬのか?自らの妹が江戸の街を放火してまわっていたことを。」
老人は怪訝な顔をしていった。解せないとでも言いたげだ。
「はい。存じておりません。」
お桔は私の方を見ずに答えた。
冗談じゃない。このお桔が、心優しいお桔がそんなことをするはずがない。
そう信じたかった。
「…放火は大罪じゃ。」
「はい。」
「本当ならば、処刑は免れられぬ。じゃがお主はまだ十五の身だ。」
…そうだ。まだお桔は十五じゃないか。
今の決まりでは、十五は年端のいかぬ子供だということで、いくら大罪を犯しても、処刑にならずにすむ。
処刑を受けるのは十六になってからだ。
ほっと胸をなで下ろした時だった。
 
「年端のいかぬ者を処刑するわけにはいかぬ。よって、鍛冶屋。お主が刑を受けろ。」
…なんだって!?
お桔の目が驚愕で大きく見開かれる。
「そんな…!!あんまりにございます!お兄さまは何の関係もございません!!」
お桔は私の前に立ち上がって老人に言った。
そうか。私はお桔の代わりに罰を受けるために連れてこられたのか…!!
「罪人は口を挟むな!!お主はそれほどのことをしたのだ!!」
「しかし、私は…!!」
次の一言で、私は更に地獄に落とされたような感覚に陥った。
 
「私は嘘をつきました!!私は十六にございます!!」
「おい!!お桔…!!」
お桔は老人の前に跪き、頭を垂れた。
「刑は私が謹んでお受け致します!!お兄さまは何の関係も無いのです!!ですから、お兄さまを帰して差し上げてください!」
「お桔!!お前はまだ十五だろう!?刑なら私が受ける!!まだ将来のある優しい娘に、先に逝かせるわけにはいかん!」
お桔に先立たれてはかなわん。
私はお桔に向かって叫んだ。
しかし。もうそれは意味を為さぬ言葉となっていて。
 
「放火をした張本人が名乗りを上げているのだ。これほどやりやすい裁きはない。…これを持ってして、鍛冶屋お桔、御年十六の裁きを終了する。」
…そんな馬鹿な。お桔が、処刑だと…?
 
「刑の執行は、明後日の明朝。心得ておけ。」
老人の重苦しい声が頭の中を蹂躙した。
「…はい。」
そう答えたお桔の小さな体は震えていた。
 
これで最後ならば。これでお桔に会えるのが最後ならば。
私はそう思って、先程の老人の所へ向かった。
私は、どうしても、行きたい場所があったのだ。
昔、お桔と行った花畑。
そこにもう一度だけ行きたかったのだ。
またお桔と一緒に。
 
私は老人に頭を下げて頼んだ。
いくら役人がついてきても構わない。だから最後にお桔と花畑に行かせてくれぬかと。
老人は少し考えてから、頷き、役人を五人従えてならば行ってもよいと言ってくれた。
 
次の日。私たちは広い花畑に立っていた。
お桔は目を輝かせて花を見つめている。
「お兄さまー」
「何だー?」
遠くから呼ばれた声に反応して、私は顔を上げた。
「ここに花がございます。美しゅうございますよー」
私はお桔に手招かれ、その場に行った。
「桔梗だな。」
私がそう言うと、お桔は桔梗を優しく摘んで、それを眺めた。
 
確か、お桔の名の由来はこの花畑に咲いていた桔梗だった筈だ。やはり、お桔には桔梗の可愛らしい花が似合う。
 
すると、お桔は桔梗の茎を指でくるくると回しながら口を開いた。
「何故、お兄さまは私が放火をしたのか、お咎めにならないのですか?」
「訊きたいとは思ったが、まだ信じられなくてな。ききそびれていたのだ。」
私も桔梗の花を見つめる。
 
「では、お話してもよろしいですか?他の誰が信じてくれなくとも、お兄さまには信じていただきたいのです。」
お桔は何かを決心したかのように、小さく頷いた。
そんな風に言われたら聞かないわけにはいかない。
「私は信じてやる。話してみろ。」
私はお桔を元気づけるため、優しく言った。
すると、お桔は嬉しそうに笑い、桔梗を懐にしまってから私の横に腰掛けた。そして、口を開いた。
 
「お兄さまと一緒に茶屋へいった日のことです。席を立って、戻ろうとした私の前に見知らぬ男が立ちました。そして私に言ったのです。『お前は鍛治屋の妹だな?今日の夜更け、家の近所に火をつけろ。そして、今までの南で起こっていた放火も私がやったと自白しろ。さもなければ、お前の兄を殺し、家を潰す。』と。」
「ひどい話だな…。」
私は目を伏せた。
「そして、私はそれを実行しました。お兄さまと家を守るために。まだ十五歳の者が行ったことだから刑を受けずにすむと言われましたので…。」
お桔は悲しげに微笑んで言った。
「もう十六だって言ってしまいましたけどね。」
「本当だ。この間十五になったばかりだというに。」
私はお桔の頭を撫でつつ、続けて言った。
 
「そうしたら、どういうわけか、お兄さまが代わりに刑を受けることになってしまって…。あわてすぎてしまいました。…でも、後悔なんかしてないんですよ。大好きなお兄さまをお守りできたので。」
「お桔…。」
辺りは一面桔梗の花。
もうじき冬がやってくる。
そうしたら、この花たちも散ってしまうのだろうか。
 
「お桔、私はお前とは離れたくない。大切な、たった一人の家族だ。」
「はい。私もお兄さまをお慕いしております。」
 
まだ年端のいかぬ少女が明日でこの世を去ってしまう。
私は彼女の微笑みをまた、もう一度目に焼き付けて。
柔らかな髪をなでた後。
彼女の手を取り、立ち上がった。
徐々に空も暗くなってくる。
今日という日は短かった。
 
明朝。
私は、また役人に呼び出されて、例の場所に向かった。
今日でお桔は逝ってしまう。
そんなことなど、実感出来なかった。
白い着物に身を包んだお桔が館から歩いて出てくる。
しかし、お桔の顔に曇りはなく、いつものように笑顔で。
出かけていた私を迎えてくれる時のような優しい微笑みをして。
庭の中央に膝を着いた。
髪が掴まれ、顔があげられる。
その状態を持ってして、初めて、私はこれからお桔と会えなくなることを実感した。
急激に涙が溢れてくる。
体の震えが止まらない。
 
「お桔…っ!!」
無意識に彼女の名を呼ぶ。
彼女は目だけをこちらに向けて、小さく呟いた。
『行ってきます。お兄さま。』
お桔がそう言うと、彼女の小さな体に不釣り合いな大きな長い太刀を持った男が立った。
その男には見覚えがあった。
いつもの常連客。
そして、いつもの太刀。
お桔と茶屋へいった日に店の前で待っていた、一人と一つ。
 
この男は、処刑を執行するために、毎月私の所に来て刀を研いでいたのか。
 
そして、今日。
私が研いだ太刀で、私の妹が斬られる。
こんな惨いことがあるだろうか。
「嫌だっ!!お桔!!私を独りにするな!!」
がむしゃらに腕を振り回して、お桔の方へ向かう。
何人もの役人が私を捕らえにきた。
しかし、私は抵抗をやめなかった。
涙で殆ど何も見えない中、必死でお桔へ手を伸ばす。
 
あと少しで手が届く。
その瞬間。
私の視界は真っ赤に染まった……。
 
風に乗って、花びらが散ってゆく。
 
「お兄さまー」
遠くから聞こえてくる呼び声。
「ここに花がございます。美しゅうございますよー」
幼い少女の声が一面の花畑にこだまする。
 嗚呼。
この声を聞いたのは、一体どのくらい前のことだったか。
私には全く思い出せぬ。
一体あれは、いつの事だったか。
あれは、誰だったのか。
思い出せぬのだ。
 
ただ、たまに立ち寄る、花畑で咲く桔梗の花が、何故か懐かしく感じる。
可愛らしい花が今日も風に揺られて咲いている。
 
人は私に言う。
悲しみが大きすぎて、記憶を全て失ってしまったのだな。
かわいそうに。
 
私には記憶がない。
昔何をして過ごしていたのかもわからない。
誰と過ごしていたのかもわからない。
しかし、思い出されるものがたった一つ。
 
美しい桔梗の花の中。
幼い少女が微笑んで。
私を呼ぶ。
彼女が誰かはわからない。
彼女の名すらわからない。
顔もよく思い出せない。
 
ただ彼女を愛しいと感じるだけ。
 
私はもう、自らの名すら思い出すことができない。
 
Fin
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プロフィール
HN:
★結來★
年齢:
30
性別:
女性
誕生日:
1993/09/23
職業:
高校生
趣味:
パソコンじゃね?
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