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私のイラスト(FFとか、BLEACH、Pandora Heartsが主)や 歌詞(アニソン)もがんがん貼っていきたいと思いますww
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深淵の底に広がりし、黒々しい闇。
そこに広がるは、毒々しい文字。数列。
それらを読み解いて初めて明かされるその言葉の意味。
それは。

誰がこの名を人に教えたいと思うだろうか。
死の神、タナトス。
その名をつけたのは他でもなく母だった。
タナトスのように、麗しく、輝かしく。
俺はこの名が嫌で嫌でたまらなかった。
だから、隠した。
誰にもわからぬように。見られぬように。
誰も訪れぬ深い深淵の底。
毒々しい文字と数列で。
隠したのだ。
その名と、タナトスにはえた悲しき翼を。
タナトスは…滅びたのだ。

「お目覚めください。そろそろ式の時間ですよ。」
俺はその声に反応してゆっくりと頭を上げた。
「…ああ。そうだな。あの場所に行くのは気が進まないのだが。」
俺は頭を押さえて、そう答える。横からローブがかけられ、俺の寝ぼけた目はそいつを捕らえた。
金の髪に深い青の瞳。こいつは、俺の従者だ。ずっと、何年も俺の側にいる。…もうかれこれ、百年になるのではないだろうか。

彼の名は、フォンヴォール。
俺がつけた。こいつ、フォンヴォールは百年近く前に俺の城の黒薔薇の区画に倒れていた。
ゆっくりと起き上がったそいつは、痛そうに頭を押さえてから俺に向かってはにかんだ。
こんな所に人が倒れているのなど、初めて見たのだ。
俺は側にいた男にフォンヴォールを運ばせ、傷の手当をさせた。

その時に聞いた話によると、フォンヴォールには記憶がないらしい。
…俺と同じだ。俺にも断片的な記憶しかない。
暗い闇。見たことのない文字と数列。
これだけが、俺の記憶に残っている。
何なのかもわからない。だが、とてつもなく不快な物だというのはわかった。

そして、俺の従者となったフォンヴォールは助けてくれた礼と、感謝の気持ちをもってして本日も俺の傍にいるというわけだ。

「フォンヴォール。俺の代わりに式に出てこい。俺は今日は行かない。」
俺はフォンヴォールの顔を見つつ、言った。
「ふふっ…。駄目ですよ。王家の者でない者が式なんかに出たら、国辱です。私が、ガイア様の母上に怒られてしまいますよ。…それに、今日は、ではなく今日も、でしょう?」
俺は反発して言い返す。
「母上は関係ない。この国で一番偉いのはこの俺だ!我が国の王はこの俺なのだ!」
フォンヴォールは苦笑すると、柔らかな動作で俺のベッドに手を乗せた。

「だったらなおのことです。国王が国王の為の式に出なくてどうします?ガイア様。」
フォンヴォールはそう言うと優雅に笑い、そっとベットから手を離した。

「それでは、下でお待ちしてますよ。」
彼は深々とお辞儀をすると、シルクのローブをはためかせて部屋から出て行ってしまった。俺は、はあっとため息をつくと、肩にかけられたローブを肩から外して袖に腕を通した。

俺は王だ。
しかし、ただの王ではない。
魔の。
邪の。
悪の。
王だ。
つまりは、魔王。
寿命は一万年。そして今日が記念すべき俺の二千歳の誕生日だった。
俺の名は、ガイア。
大地の神ガイア。由来はそこだ。
ガイアのように麗しく、輝かしく。
俺はこの名が、好きだった。

「来ましたか。」
フォンヴォールは微笑むと俺の横に立つ。
そして、ローブに黒薔薇をさした。
「……なんだこれは。」
俺は訝しげに薔薇を見つめた。
「黒薔薇は魔王の象徴でしょう?せっかく、国が総出で祝ってくれるのです。つけておいて、悪く思う人などいませんよ。」
「俺は祝ってくれなどとは言っていない。それに、魔族を良く思わない輩もいる。…俺には公になってはいないが、記憶が殆どないのだ。そのような魔王を魔王と認める者など…。」
俺は声のトーンを落として言った。すると、フォンヴォールは対照的に自信に満ちた声で言ったのだ。
「何を言ってらっしゃるんですか。あなたは私を救ってくださった。それは変わらないでしょう?私はあなたに感謝しています。私はあなただけは裏切りませんよ。」
「ヴォール…。…それは、俺がお前を裏切ってもか?」
「ええ。私はあなたに忠誠を誓ったのです。例え、何が在ろうとも私はあなたと離れる気はございません。」
眩しい。この男の自信が。
同じように記憶を無くしているのにも関わらず。
何故こいつはこんなにも、自信に溢れている?

「さあ、そろそろ行かなければ。ガイア様の母上もお怒りになりますよ。」
「…そうだな。行くのだとしたら、出来れば俺も母上の逆鱗には触れたくない。」
俺は、黒薔薇に一度目線を向けてから、正面を見た。

そこはいつもは閉められている神殿だ。
俺の誕生日にのみ開けられるこの神殿。俺はこの神殿が嫌いだった。何故かはわからない。ただ、俺の本能がここに寄るなと叫んでいるのだ。

「さあ。入りましょう。」
フォンヴォールが取っ手に手をかけた。

そして、目を見張った。
「あ…っ!?」
神殿の中には、おびただしい量の血。
おびただしい量の骸。
「な、なんだこれは…!?」
「みんな…死んでいるようですね…。」
フォンヴォールは、口を覆いながら言った。
「何が起こっているのだ!?」
「ガイア様!!あれを!!」
俺が顔を上げるとそこには、俺の記憶の断片と合致する、
毒々しい文字と数列。深い闇。

「ああ…っ。これは…。」
俺は、力の入らなくなった足を引きずって、そちらに進んだ。
これは、俺の…。私の…。本当の。

頭痛が酷い。
頭が割れそうだ。
昔の記憶が、古い順番に戻ってくる。
そして、最後に戻ってきた記憶は。

「タナトス…。」

横で聞こえた声に振り向いた。
そこには、驚いた顔をしたフォンヴォールがいた。
「え…」
「この文字…この数式…この場所。これは…。知っている。何もかも。もう時がきたのだ。既にあれから千年がたつ。」
「何を言っているのだ、ヴォール!?」
フォンヴォールは、更に奥へ進む。

「『誰がこの名を人に教えたいと思うだろうか。
死の神、タナトス。その名をつけたのは他でもなく母だった。
タナトスのように、麗しく、輝かしく。
俺はこの名が嫌で嫌でたまらなかった。
だから、隠した。
誰にもわからぬように。見られぬように。
誰も訪れぬ深い深淵の底。
毒々しい文字と数列で。
隠したのだ。その名と、タナトスにはえた悲しき翼を。
タナトスは…滅びたのだ。』そう…書いてあります。こんなにも複雑な文字と数列。それなのに、なぜ私が読めるのだと思いますか?」
フォンヴォールは下を向いたまま言った。

「あれは、私が書いた、私の墓です。」
「何を言っているのだ!?あれは、俺の、タナトスの…!!」
「いいえ。私のものです。私が…昔は魔王だった…。」
フォンヴォールが立ち上がった。金の髪を揺らして。

「私は、タナトス。母上から貰った名を破り捨てたのは…私です。」
「ヴォール…」
「記憶から名前を思い出すのを恐れた私は、昔の記憶ごと全てを破り捨て、ここに封印しました。この文字と数列で。記憶をなくした魔王は、黒薔薇の前で目を覚ましました。何がどうなってそこで目を覚ましたのかはわかりませんが…。黒薔薇は魔王の象徴でしょう?」
「しかし、それでは何故俺にも記憶がなかったのだ!?」
俺は、フォンヴォールに言った。何がどうなってるのかわからなかった。

「それは…私が周りの人達からも私の名前が思い出されることが無いように、この世界の全ての人々の記憶を消したからです。…実は、記憶が無かったのはガイア様だけではないのです。この世界の人々の中には千年より前の記憶はありませんでした。」
「そんな…」
俺は、絶句した。
「全ての人々から記憶を消すのは容易ではありません。だから、私は目を覚ますまでに九百年の月日を要してしまった。ガイア様にあった、ここの記憶は、きっと、私の記憶が漏れてしまったものでしょう。
そして、記憶が無くなった人々はどうしたと思います?
そう。記憶が無いことを悟られないようにするため、疑似の家族や、疑似の友を作ったのです。
一人にならないように、知らない子供に声をかけて、自分の子にする母。そして、今まで知らなかった人物と昔から友達だったかのように互いに振る舞おうとする人間たち。
穴のあいた魔王の座を埋めようとする大臣たち。
そして、選ばれたのがあなただ。」
フォンヴォールは振り返った。

「だって、おかしいと思いませんか?なんであなたは記憶にないのに、魔王になっているのでしょうね?」

頭の中が凍り付く。
そうだ。何で、俺は魔王になっているのだろう。
だって、俺は、ただの『使用人』でしかなかった筈なのに。
『フォンヴォール』は、俺の名であった筈なのに!

「あ…ああ…!!」
「そろそろ、みんなの記憶が戻ります。…みんな、自分たちの在ったはずの場所に帰ろうと、帰そうとするでしょうね。」


これは何の悪夢だろうか。
これは何の仕打ちだろうか。


これは、死の神、タナトスの名を嫌った魔王の気まぐれなお伽話。

Fin
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